其之十二 こぼれたソーメン

 上の写真をご覧になって、いったい何が写っているのかおわかりの方は、相当な変わり者であると断言できる。ちゃんと撮れていてもなおわかりづらいというのに、このサイズの写真で、しかも特にクローズアップにしているわけではないのだから。
 いったい何を撮っているのか。写真に写っているものをわかりやすく絵にしてみよう。

 こういうものが写っているのである。
 ほら、写真をよく見ると、なんだかチャンプルーを作っているときにフライパンからこぼれたソーメンのような白いものが海底にビヨヨヨ〜ンと延びているでしょう?イラストでは本数を省略したけど、実際はもっとたくさんのソーメンが延びている。

 コイツはいったいナニモノか。
 これ、ソーメンが何本も延びているけれど、イラストに明らかなとおり、実は中央部分で集合していて、岩穴の中へとつながっている。そう、一匹の生物なのだ。その証拠に、どれか一本をピンと触ると、シュルシュルシュルシュル……と全部の糸が引っ込んでいく。せいぜい1本の長さが30センチくらいだからそれほど脅威ではないけれど、これがオオイカリナマコサイズだったら、その不気味さはB級SFホラーどころではないだろう。
 触る前にその糸を1本1本よく見てみると、表面に砂粒をたくさんのせている。触らずにずっと見ていても、体の表面に砂が溜まると勝手にシュルシュルシュル…と引っ込んでいく。どうやらボネリムシと同じように、砂中に含まれる有機物を欲しているのだろう。

 さてこの生物、例によって日本の図鑑にはどこにも見あたらない。見あたらないので、クロワッサンでは最も雰囲気が似ている生物、ミズヒキゴカイの仲間、というふうに便宜上言っているけど、もちろんミズヒキゴカイではない。
 日本の図鑑には載っていないけれど、洋書の図鑑には当然のように載っている場合もある。英名では、スパゲッティ・ワームと呼ばれているようだ。
 フームなるほど、海の向こうではソーメンではなくスパゲッティか…。
 このスパゲッティ部分はフィーディング・テンタクルズというそうである。食用触手ってところかな。で、海外のこういうマニアック生物系のサイトを探ると、こんな生物の人目に触れない部分の正体をわざわざ図解してくれていた。

 いやはや……。
 こんなものがあの穴の中で蠢いておるのですなぁ。