
旅はまだまだ終わらない……番外編・札幌夜の街
小樽から札幌へは30分ほどだった。
ニセコ、小樽ときて札幌を見ると、圧倒的な大都会である。大都会はなるべく避けたい我々だから、小樽に泊まって翌日空港へっていう手もあった。が、やはり赤レンガの道庁や時計台はサザエさん計画には欠かせない。
大きな大きな札幌駅から泊まるホテルまで歩いて20分ほど。ただし、途中ちょっと回り道をすれば道庁や時計台を見ることができる。抱えたバッグは重かったが、暮れなずむ街をテクテク歩いてみることにした。
碁盤のように規則正しく整えられた札幌の街は、仙台と同様街づくりに知性が感じられ、都市ならではの美しさを備えていた。
美しいと同時に、碁盤目の街は便利でもある。南5西3とかいう具合に書かれる住所は、まるで棋譜をたどるようなものなので非常にわかりやすい。わかりにくかったら迷子になって凍死してしまう人もいるかもしれない、という冬の厳しさのなせるワザなのだろうか?

赤レンガのあとは時計台である。
札幌といえば時計台というくらい有名なシロモノではあるが、知る人ぞ知る、日本3大ガッカリのうちのひとつでもある。
ちなみに他の二つのガッカリは、高知のはりまやばしと、2000円札のデザインにもなった、我が沖縄の守礼の門。
いまでこそ首里城が復元されてその手前の門というポジションが明らかになった守礼の門だが、首里城復元前までは、ただそこにポツンと門があっただけだった。さんざんもったいぶった説明が観光ガイドブックなどに載っているのに、実際に見に行けば、ショボイ門があるだけじゃん………と思った人が多かったのだろう。
よく耳にする時計台の評も同様だった。
写真だけ見るとさぞかし立派な時計塔って感じなのに、実際に行ってみるとそこにあるって気付かないほどにショボイ、という。我々はそのショボサを楽しむことにした。

泊まるホテルは、さらにその先、大通り公園を越えたところにある。
初めて来た大通り公園なのに、なんだかとっても懐かしい。
それもそのはず、その俯瞰映像がNHK北海道のローカルニュースの冒頭やエンディングに必ず出てくるので、我々にとってはここ数日おなじみの風景だったのである。

テクテク歩くと、目指すホテルが見えてきた。
「APAホテル札幌」である。
どうせ素泊まりだからと、船員会館に泊まる気分で予約していたビジネスホテルである。今はインターネットで予約するとなぜか割り引きされることが多く、ここもそうだった。1泊二人で6000円。安いでしょう?
そのAPAホテルが、平成のオオヤマサコとでもいうべき女社長で知られるホテルである、ということを泊まって初めて知った。
自分の顔写真を表紙にした「私が社長です!」というタイトルの本が、ご丁寧にも部屋に1冊置いてあったのだ。
そのセンスを事前に知っていれば絶対にここを選ぶことはなかったろう。
しかし、社長のキャラと経営方針とはいい意味でまったく様相を異にしていた。
予約の際にメールで問い合わせをしたところ、これホントにビジネスホテルなの?というくらいに実に丁寧な対応をしてくれたのである。例の冬靴も、このホテルのフロントの方が通販している業者をメールで教えてくれたからこそ、手に入れることができたのだ。
それだけではない。ただの1泊、それも素泊まりというのに、札幌に関する観光ガイド冊子のようなものを何冊も郵送してくれていたのである。僕らが知らないだけで、今の世の中、ビジネスホテルもこういう対応をしてくれる時代になったのだろうか。
当日チェックインするとき応対してくれたのは、メールの対応をしてくれた方だった。彼自身も客と事前にそういうやりとりをしたのは初めてだったという。つまり僕はよっぽど田舎モノ度をアピールしていたってことなのかな?
いずれにせよ、初めて来たビジネスホテルのフロントでこういうやり取りがあるなんてのもなかなかいいもんだ。このあたり、どこまで立ち入ってどこまで距離を置くか、というのは接客業としては難しいところなのだろうが、我々としてはストライクゾーンだった。
で、そのチェックインで、予約している格安セミダブルの部屋よりも大きなツインの部屋を、アップチャージ無しで利用できることになった。
船員会館程度を期待していたのに、同じ値段で圧倒的に広々とした部屋………。ボランティアではないのだから、利益をあげなければならないだろうに、こんなことで経営は大丈夫なのだろうかと、逆の意味で心配になるほどだ。
そして極めつけはベッドの上。
2つあるベッドの上に、それぞれ折り鶴がそっと置いてあったのである。どうやらこれは心づくしという意味での社長の方針であるらしい。<つまり「私が社長です!」を読んだってこと!?
不景気というのはたしかに大変ではあるが、それを乗り切るためのアイデアのなかに、たかが折り紙とはいえこういった心と心的要素が入ってくるのであれば、まんざら不景気も悪くはないと思ってしまう。あのバブルがもし続いていたら、こういうビジネスホテルなんて、それこそビジネスホテルってだけのホテルだったろう。
そんな心づくしの折り鶴を見てうちの奥さんは
「もしかして私たちってレプリカント?」
と言った
ひとっプロ浴びて、広々とした部屋でくつろいでいると腹が減ってきた。
行こうかしこへ、北の幸へ!
夜の北海道を歩くのはこれが初めてだ。
僕は覚悟していたほど寒さは感じなかったのだが、隣でうちの奥さんは凍えていた。まさか、また植村直巳に!?
今宵の店はススキノにある。居酒屋北○というところだ。○は伏字なのではなくて、そのままキタマルと読む。
ススキノなんてとんでもない歓楽街なのではないか、と思っていたけどいたって上品な夜の街だった。本当に寒いと、本当に用がある人しかいなくなり、わけのわからないヤツらがたむろしない分、街もきれいに見えるのだろうか?
そこの住所もやはり南○西○というわかりやすい住所なので、迷うことなく到着。さて、いったいどんな居酒屋さんなのだろう??
とっても洒落ていた。
カウンターに座ると、上着を預かってくれ、番号札まで渡された。イヤン、緊張するじゃないのさ。
観光案内などにはキラ星のごとく並んでいる飲み屋のうちから、なんで右も左もわからない我々がこういう店を選べたのかというと、風みどりご夫妻に教えてもらっていたからである。彼らにとっての札幌は年に1、2度来るか来ないかというくらいに遠いところらしいけれど、飲み屋街に詳しい知人にわざわざ電話して尋ねてまでオススメの店を教えてくださったのだ。
どんな観光地の居酒屋でもにぎわうところはたいていそうであるように、やはりここも地元の方が利用する店であるらしかった。もちろん、北海道の幸も数多くメニューに載ってはいたが、
なんで生ビールがサッポロじゃないんだ!!
と、観光客は叫びたいわけである。サッポロビールよ、沖縄の新聞に大きな広告を載せる前に、地元でしっかり売上を伸ばすように。
日本酒も同様で、全国各地の垂涎モノがたくさん名を連ねている一方で、北海道の酒はわずか2種類。北海道の酒は美味い、美味い、とさんざん聞いていたけど、地元の人にとってはそれほどでもないのか??
それでもやはり、肴は沖縄で味わえないものばかり。もちろん、北海道産シシャモとも再会をはたした。八角の唐揚げ、ソイの刺身、真たち、コマイの一夜干し………美味かったなァ(ズルルルルッ<ヨダレの音)。ベルトを緩めボタンをはずし、舌鼓を打ちまくった。この旅行中、我が舌はいったい何度鼓を打ったろうか。
ハッピーバースデーの乾杯込みだったとはいえ、なんで二人で普通に飲んでいつもこんなに高くなるのかなぁ……………。<食いすぎるからダッ!!
風みどりさんにはシメのラーメン屋さんのオススメも聞いていた。
けやきというところに行ってみよ、というアドバイスであった。
すでにスキー場のロッジのラーメン屋の時点で「美味しいねぇ」と喜んでいた我々だから、特にラーメンにこだわっているわけではない。でも、やはり札幌といえばラーメン。食わずに帰っては申し訳ない。<誰に?
ただ、いかにも我々らしいといえばそれまでながら、ひとつ問題があった。
場所も住所も電話番号もわからん。
北○からそう遠くはないのだろうけど、本部の町とはわけが違う。仕方がないので、すぐ近くにあった電話帳で住所を調べることにした。
札幌市内のラーメン屋の欄をツラツラツラと探して………と。
あれ?
ページがない!!
なんとラーメン屋のキからケのページだけ破かれているではないか!
犯人は、我々とまったく同じ目的でその犯行に及んだであろうことを確信した。
ラーメン屋を探すにあたり、電話ボックスを探す我々……。
ようやくたどり着いたそのボックスの電話帳には、ちゃんとそのページがあった。ようやく住所確認。
チラホラ雪の舞う夜のススキノを、けやきラーメンを探して歩いた。
20分ほど同じ場所をグルグル歩きまわったろうか。
あまりの寒さに嫌気がさしはじめたうちの奥さんは、もういい加減あきらめようよとしきりに言う。僕も北○で満腹だったので、すでにラーメンは食っても食わなくてもどっちでも良かった。でも、ここまできたらたとえ食わないにしても場所だけは探し当ててみたい。
と思い始めたとき、小さな筋に行列が見えた。
行列?もしかして…………
ビンゴ!!
小さな小さな店であるということは聞いていた。おそらく飲んでから行ったら満員だろうという話でもあった。でも、まさかこんな寒い夜に路上に行列を作ってまで食おうとする人がいるなんて………。
ある意味信じられない光景を見ることができたので、満足してその場を去ることにした。
帰りがけに寄ってみたラーメン屋は行列も何もなかったけれど、僕らにとっては十分だった。
よせばいいのにチャーシュー麺を頼んでしまい、僕はまたしても腹16分目くらいになってしまった。今宵もまた悶絶の夜を過ごさなければならないのか……。
満腹の腹を抱えたままタクシーに手を挙げ、更けゆくススキノの街をあとにした。